
門田将明さんのノンフィクション、
「死の淵を見た男 吉田昌朗と
福島第一原発」を実写映画化した作品、
「Fukushima 50」を見ました。
いわゆる「3.11」のときの、
原発事故の様子がよくわかり、
とても興味深い作品でした。
2011年3月11日、M9の地震が発生し、
それに伴う巨大津波が福島第一原子力発電所を襲い、
すべての電源が喪失、原子炉の冷却ができなくなり、
メルトダウン(炉心融解)の危機が迫る…そして、
ってお話。
まず、「3.11」のとき、
福島第一原発で何が起こったのかがわかります。
電源を失い、メルトダウンし、
やがて水素爆発を起こします。
次から次へと危機が迫ります。
危機と言ってもただの危機じゃない。
東日本すべてが壊滅状態になるかもしれない、
そんな人類史上に残る危機なわけです。
そんな未曽有の危機に立ち向かった人たちがいる。
所長の吉田昌朗(渡辺謙)をはじめ、
発電所にとどまった約50人の作業員たちです。
彼らは死を覚悟しながら決死隊となり、
作業に挑んでいきます。
まさに「決死」だなって感じました。
私が行きます、私が行きます。
皆、次々に手を挙げます。
その作業員の命を守るのが、吉田所長と
1・2号機当直長の伊崎利夫(佐藤浩市)でした。
彼らはお互いを励まし合い、ときにはぶつかり合い、
怒り、笑い、歌い、
そうやって自分の感情と戦いながら、
作業員の命を守り抜いていきます。
そこから感じることは、
決死隊の覚悟や所長や当直長の使命感。
自分だったらできるだろうか。
あの場所で手を挙げて、
私も行きますと言えるだろうか。
そして事態は良い方向へ落ち着いていきます。
何をしたから良かったということではなく、
結果的に良かった、そういう落ち着き方でした。
それはきっとFukushima50の人たちの、
気持ち、想い、願いが、
事態を収束させたように思います。
落ち着いたあとの吉田と伊崎。
ふたりはまさに「同志」だなって感じました。
使命感を共有して立ち向かい、
力を合わせて乗り越えた同志。
きっとふたりにしかわからない、
原発や事故に対する想いが
あるんだろうなって思いました。
事故を経験して人生観も変わるのでしょう。
伊崎は反対していた娘の結婚も後押しします。
穏やかな表情の伊崎がつぶやきます。
「吉やん、今年も桜が咲いたよ」。
そこに桜が咲いていました。
原発事故、
そして奮闘する作業員の様子を
垣間見ることができること、
そこが興味深い映画です。
原発事故を題材に映画っぽく、
パニックムービーに仕立て上げているのも、
映画を楽しむという点においては良いと思います。
ただ、パニックムービーとしては、
いささか盛り上がりに欠ける印象はあります。
中盤にかけてハラハラドキドキは増していくものの、
後半はどちらかと言うと、
作業員の家族を巡る話にフォーカスし、
物語は穏やかに落ち着いていきます。
でも、それがリアルなんだろうなって思います。
つまり、作業員の決死の作業は劇的でしたけど、
原発事故が収束したのは、
結果的に良かったというところなので、
劇的には描きづらい。
なので、こう描くしかないんだろうな、と。
あと、作業員たちがヒーローで、
当時の首相が悪者という形で描かれていますが、
これには注意が必要だとも感じました。
実際に首相が現場を訪れたことは、
多くの批判を招き、僕も同じような考えでしたけど、
細かい事情などはわからないので、
首相の行動の是非については、
多くの書籍など、目を通す必要があるとは思いました。
ただ、首相を悪者として描くことによって、
ハリウッド的というか、
映画としてわかりやすかったとは言えます。
なので、映画として割り切れば、
良しとするところでしょうか。
「トモダチ作戦」も出てきます。
僕のとある歌の歌詞にも登場するワードです。
映画のラストでは復興五輪についても触れています。
今、見ると、虚しさを感じることになります。
本当は復興のはずだったのに…と。
あと、この作品を通して、
原発について、
もう一度考える必要があるなって思いました。
「3.11」から11年経ちますけど、
作業はまだ終わっていないわけで。
そんな中、最近大規模停電が起きるかもしれない、
そんな現状もあるわけで、
この機会にいろいろ考えてもいいと思いました。
それと、考えることをもうひとつ。
吉田が伊崎に送った手紙にはこう書かれてありました。
「俺達は何が間違っていたか聞かれたが、
自然をなめていた」と。
自然への畏怖をしっかり感じること、
そして、後世へ語りついでいくこと、
この作品の一番言いたいところかなって思いました。
リーダーシップを発揮した吉田と伊崎を演じた、
渡辺謙さんと佐藤浩市さんの演技がすごいです。
ふたりの演技力がこの作品自体を守り切った、
そんな印象さえあります。
首相を演じた佐野史郎さんの悪役ぶりも素晴らしい。
観る者の心を芯からヒートさせるでしょう。
男だらけの作業の中、女性職員役の安田成美さんの
優しい佇まいにほっこりします。
あと作業員の妻役の中村ゆりさんが、
とっても綺麗です。
あの日、福島第一原発で、
何が起こったかを知りたいとき、
吉田、伊崎をはじめ、
Fukusima50の決死の覚悟を感じたいとき、
そして、原発の今、未来を考え、
自然への畏怖と後世に語り継ぐ意義を感じたいとき、
オススメの映画です。