
去年、
母ちゃんの右手が動かなくなって、
病院に行ったときのこと。
待合室で母ちゃんは、
「手が動かないねぇ」なんて言いながら、
右手をぷらぷらさせていました。
手首から先が動かないので。
母ちゃんは右手が動かないことに、
イライラするわけでも、
悲しむわけでもなく、
ただ「動かないねぇ」と
ぷらぷらさせるのです。
そんな様子をたびたび見ていたので、
この日もいつもと変わらず、
まるで遊んでいるかのように
ぷらぷらしてる、
母ちゃんを眺めていました。
すると、
「うわ!あの人見て。
おばけみたい」の声が。
同じ待合室でお友達と談笑していた、
母ちゃんと同じ年ぐらいの女性の声でした。
その言葉、えぐかったなぁ。
心の奥まで切り裂かれるよう。
悔しさと悲しさの塊が、
突然、僕の体内に入り込む。
絶対に母ちゃんを元気にしてみせる、
そう誓って、苦笑いを浮かべながら、
声の主を眺めてみました。
それでも母ちゃんは相変わらず、
「手が動かないねぇ」と言いながら、
ぷらぷらを続けるのでした。
そんな母ちゃんが、
愛おしくもありで。
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